THE SHE

FASHION PHOTOGRAPHS

上澤友香×<COMING OF AGE>

THE SHEが注目するブランドの新作コレクションを写真家に自由に撮ってもらう企画「写真とファッション」第二弾。今回は写真家の上澤友香さんに、NY発の<COMING OF AGE>を撮りおろしてもらった。

 

上澤友香さんは東京を拠点に、数々のファッション雑誌や広告で活躍している。上澤さんの写真は派手な強さの代わりに、心の奥深くまでじわじわと静かに染み渡るような優しさがある。人間、動物、景色、物……、写真の対象がどんなものであれ、撮る背景に母性のようなものを感じる。それは静かで、優しく、そして強い。有名無名関係なく、被写体の魅力を無理なく、ありのままの姿から少しだけ持ち上げる、上澤さんのドキュメンタリー調のポートレートがとても好きで、THE SHEの立ち上げから間もない頃の、初めてのファッション撮影も彼女に依頼した。

「長野で生まれ、アートとは無縁の環境で育ちました。家には父が買った『サンタフェ』の写真集があったくらいで(笑)、美術館へ出かけるよりもスポーツやアウトドアを好む家庭でした。だから、今思えば、写真家へのルーツは雑誌です。小学生の頃から雑誌が大好きでした。最初は『ピチレモン』だったかな? 学年が上がることに『セブンティーン』や『ジッパー』など読む雑誌がどんどん増えて、着こなしを真似したりしていました。はじめて写真を撮ったのは、高校生の文化祭でパンフレットを担当した時です。カメラというツールを使い、記録することは楽しいと感じました。」

1989年生まれ、地方育ちとくれば、美術を仕事にすることに対する周囲の大人たちの不安が、今よりもまだまだ大きかった時代だと安易に想像できる。

「進路を考える時、美大も選択肢にあったんです。でも、先生に『(美大に進むなんて)1人だけスクランブル交差点の真ん中に置いていかれるような感覚になるよ。』と言われた。それは、今でも時々思い出してしまうほど悔しいことで、いつか見返したいと思う気持ちをずっと持っています。当時はそれを跳ね返せるほどの自信もなかったから断念してしまい、普通の四年制の大学へ進学しました。なかなか馴染めずにいたんですが、フリーペーパーを制作するサークルに入部したことがきっかけで、少し気持ちも意欲も浮上しました。そこでは写真ももちろん担当しましたが、インタビューしたり、レイアウトを考えたりして、紙の媒体がどんな風に成り立つのかを少し学びました。本を作ることが本当に大好きで、在学中はツイッターでダウンロード式のフリーペーパーを発行したりもしましたね。」

気持ちが大きく写真家へと傾いたのは、進路を考える大学3年生。ひとつのきっかけはここでもやはり、雑誌。『SWITCH』に掲載された力強い写真とそれを生かす贅沢な構成に心を惹かれたこと、もうひとつは、3.11、東日本大震災。

「自分の名前で仕事をしている方達が様々な媒体やSNSで、自分の意見や意思をしっかりと発表していたんです。誰かの代わりの代理や代筆ではない、まっすぐな表現に気持ちが揺さぶられました。こういう非常時には、自分の名前と仕事を前に出せる人は強い、私もそうでありたいと強く思ったんです。当時、まだ本を出版する前でブログで発信していた写真家の植本一子さんにも憧れましたね。それを機に、卒業制作として45人のポートレート写真集を作りました。」

スタジオでの下積み時代の紆余曲折や挫折も経験しながら、写真家の三部正博さんの元で23歳から2年と少し、アシスタントとして働くことになった。
「自分としては結構、回り道をした方だと思います。だからこそ、今度こそは自分が好きだと思う写真家の元で働こうと決意したんです。三部さんを知ったときはアシスタントの募集がなかったのですが、こまめにホームページをチェックして募集がかかるや否や、すぐに連絡しました。1本、1本の撮影を丁寧に大切に撮る写真は衝撃的に美しかった。写真はもちろん、働き方の本質なども含めて、たくさんのことを学びました。」

独立してから今年で6年目。華やかなものだけじゃなく、地味でも日常にある当たり前のことを大切にしたいのだとか。

「例えばいつもの帰り道だけど、木漏れ日が綺麗だったり、コンクリートの隙間からひっそりと咲いた雑草の花が可愛かったり。そういうシーンを大切にしたいし、見逃したくない。特別よりも日常や身の回りのことを慈しみたいという気持ちが強いです。だから、私の写真には、やっぱりどこかドキュメンタリーな要素が入り込むんだと思います。自分を前面に押し出すよりは、自分の視点で、人やもの、できごとを新鮮に撮ることができたら本望です。」

<COMING OF AGE>の靴やバッグ、そして今回のショートパンツはまさに日常で気負いなく、ガシガシと使って欲しいものばかり。上澤さんの写真に対する思いと同じく、使う人のいつもの着こなしや生活がちょっと新鮮になることが何よりも嬉しい。話を聞きながら、やっぱりオファーしてよかったと改めて思った。

「とてもカラフルだったから、海で撮るのもいいかなと思ったけれど、やっぱり日常生活の範囲内で撮ることを1番にしました。モデルは、いつも可愛い洋服を着ていて、チェック柄が似合うと感じていた友人に頼みました。撮影時期がずっとお天気が良くなかったから、可愛い背景で撮って、色とのバランスを図りました。」

今は、仕事としてのカメラワークのほかに、「母と娘」をテーマにした写真も撮りためている。いつか展示会や写真集にまとまることを楽しみに待ちたいと思う。

 

Direction & Photo : Yuka Uesawa Edit & Interview : Kaori Watanabe