THE SHE

LASTFRAME

THE SHEが愛する日本ブランド
<LASTFRAME>へ綴る、ラブレター

<LASTFLAME(ラストフレーム)>を初めてじっくりと見たのは、今年の3月初旬、パリコレ取材終わりにロンドンへ移動して、長年の友人で世界のファッションアイコン、マスイユウと夕飯を食べた時だ。小脇に抱えたピンク×グリーンのチェッカー柄のバッグ可愛くて、「それ、どこの?」と試しに持たせてもらったのがきっかけだ。キャッチーでポップな見た目と相反する、上質なリブの素材感と触り心地。久しぶりに一目惚れしたアイテムだった。

出合いはロンドンだが、<LASTFRAME>は2018年、デザイナー奥出貴ノ洋さんが日本での物作りにこだわることをコンセプトにスタートした、日本ブランドだ。現在はスカーフとバッグを発表している。奥出さんはこれまでバッグブランドの<nana-nana>を始め、国内外の人気ブランドのデザイナーとして活躍し、数々の”売れるファッション”を世に送り出してきたヒットメーカーだ。
「<LASTFRAME>は売れることはもちろんですが、日本ならではの伝統工芸、職人技をまず大前提におく。そこに、これまで自分がやってきたデザインをミックスすれば新鮮で面白いと思ったんです」と奥出さん。
ブランドが出来上がるまでのストーリーが面白い。デビューシーズンはスカーフからスタートした<ラストフレーム>だが、実はスカーフを作るつもりは特になかったという。「日本ならではの伝統工芸だ!と思いつき、まずは地元の金沢に目を向けました。石川県は雨量が多く、世界的な合繊の産地。九谷焼も有名ですし、金沢21世紀美術館もある。全国各地から工芸作家を呼び寄せている特殊な街で、文化に対して懐が深い。美意識も高く、忍耐強い職人さんも多い。とは言っても特につてがあるわけでもないので(笑)、繊維協会にいきなり電話をして思いの丈を伝えたんです。すると結構面白がってくれて、いろんな工場を一緒に見学に行きました。最後に出会ったのが、織り柄のシルクを作ることができる、日本で唯一の工場。資料室で過去のシルクの生地をたくさん見せてもらったら、もうまさに宝の山。興奮しましたね、あれは。(奥出)。」

五感で味わう、唯一無二のスカーフ

 スカーフを作りたかったわけではなくて、その工場と一緒に物作りがしたくて結果的に、スカーフを作った。得意とするグラフィックを、Tシャツからスカーフに置き換える感覚だったという。花とチェッカー柄のハーフ&ハーフ、モノクロ写真に大粒のドット柄、ラムネ色の生地に真っ赤なストライプ、陳列するグラフィカルなバラ。色と柄の組み合わせの面白さが抜群で、まずは視覚でワクワクする。手に取って身につければ、その極上のなめらかさ、つまり触感でドキドキする。まさに、五感が喜ぶスカーフ。「この技術は日本でしかなし得ない」と言う通りのクオリティだからこそ、いろんな巻き方、使い方ができる。あまりターゲットとしていなかった、ファッション感度の高い若い男性向けのセレクトショップからのオーダーが増えているという話も頷ける。

リブ素材のハンドバッグは、“日常使いの逸品”

次なるアイテムとして登場したのが、リブ素材のバッグだ。こちらもまた、起点は日本の工場。
「巻物つながりでストールを作ろうかと思っていたのですが、僕のやりたいものが複雑でなかなか実現できそうにない。しかもストールは季節が限られちゃうのでどうだろうと考えていたんです。そんな時に、たまたま知り合いの知り合いから紹介してもらったニッター(編み物業者)が世界に数台しかない編み機を持つ奈良の工場を探してくれました。実際に目にして、バッグが作れるぞ! と思い立ったという流れですね。ちなみにこの素材でバッグを作るのは初めてなんですよ。」
お気づきかもしれないが、奥出さんの引き寄せ力はピカイチだ。私もその力にグイグイと引き寄せられて、今、こうしてインタビューをしている一人なのかもしれない。そうなら嬉しいな。
「世界的に有名なブランドの仕事もやっていたような工場で、だからこそ稀有な機械が残っていたんです。大量生産はできないが、唯一無二のものは作れる。ファストファッションには真似できない技術がある。うん、やっぱり今は真似できないようなものを作っていかなきゃいけないですよね。(奥出)」
地厚のリブ素材はたくさん荷物を入れてもビクともしない。もちろん、形は変形するが、それもまた面白くて愛おしいし、荷物を取り出せば形状は元通りになる。カジュアルで親しみの持てるストライプとチェッカー柄は、Tシャツとデニム、スニーカーというラフな着こなしにも、フェミニンなワンピースにもよく合う。細いレザーハンドルは取り外せる2WAY使用。日常で繰り返し使えるデザインと技術がぎゅっと濃縮されたバッグだ。
スカーフもバッグも決して安価ではないけれど、長く、長く、愛用できるものだ。「100年後に、どこかの国で貴重なビンテージとして古着屋に置かれているようなものにしたい」と奥出さんが言う通りの逸品だ。しかも、”普段使いできる逸品”ってなんだかかっこいい。日本が誇る職人技に対価を払い、使い続けることはエシカルなファッションにも繋がると思う。奥出さんのアイデアと出会いにより、偶発的に増えていくであろう、まだ見ぬ新しいアイテムもとびきり楽しみに待っている。

Text : Kaori Watanabe