THE SHE

Vanity Nap

90年代バイブスを今の気分に変換!<ヴァニティ ナップ>

THE SHEの2人にとっては青春そのものであり、ファッションやカルチャーに関しても、きっとこの先もずっと好きな時代が90年代だ。90年代後半、大学生の私はいつか著名なファッションデザイナーにインタビューするかもしれないと英文科を選び、仕送りとバイト代をほぼほぼ洋服に費やし、寝ても覚めてもファッション雑誌を読み漁っていた。長い休みはヨーロッパに飛び、主要なショップの品揃えと売れ行きをつぶさに観察し、パリコレに度々、勝手に忍び込んでいた。ちなみに初パリコレは<ラフ・シモンズ>。インビテーションはないが、ド根性とファッション愛、編集者への煮えたぎる熱望はあるという非常に迷惑な一介の学生だった。

 

安室奈美恵と同い年で、当時はアムラー全盛期。大学の友達が黒のミニスカート&ストレッチブーツにブランドバッグという出立ちの中で、私は<ヘルムート ラング>や<コム デ ギャルソン>、<マルタン マルジェラ>や<ドリス ヴァン ノッテン>をはじめとするアントワープ6人衆に<マーク ジェイコブス>などを着ていた。<アンダーカバー>や<ナンバーナイン>といった「裏原」系、<サイラス>などをミックスして、とびきりに刺激的であった東京ストリートをうろうろする日々。その頃の口癖は「コンセプトのない服は着たくない」という、完全なる黒歴史時代である。

 

当時のファッション話を詳細にし始めるとキリがないのだけれど、とにもかくにも、思い入れの深さは海の如く。そこへきて、昨年からは「Y2Kファッション」と呼ばれる、2000年代初頭に流行ったテイストがトレンドとしてリバイバル中だ。チビTにバギーパンツ、厚底シューズと思わず目を細めて昔を懐かしむアイテムが続々と登場しているが、実際にその時代をリアルに体験していた上で、2022年春にまた取り入れる身としては、やはり慎重になる。本物をしっかりと理解した上で、華麗にモダンなデザインへと進化させたものが着たい。いや、それしか着たくない、着られない。

 

そんなTHE SHEの気持ちを鷲掴みにしたのが、ポーランドのワルシャワ発<VANITY NAP>だ。若いデザイナーデュオが2016年に設立、2020年秋冬シーズンにスタートしたブランドで、ブランドコンセプトがまさに「90年代のノスタルジアとモダンなエレガンスの融合」。馴染みがあるけれどまごうことなく現代的なデザイン、クラシックなフォルムとストリートのミックス、遊び心がありながらも着こなしやすいアイテムをテーマにコレクションを発表している。パターン、カッティングの鋭さもさることながら、ユニークで存在感のある素材もブランドの特徴だ。

 

ボリュームたっぷりのバギーパンツはなんといっても、「春のコーデュロイ」という素材の選定が面白い。少しくすんだソーダのようなブルーという爽快な色で、秋冬素材のイメージを鮮やかに払拭。生地感も分厚くないため、さらりと穿きこなせる。ショート丈トップスやコンパクトなTシャツと合わせて90’Sテイストを意識するのはもちろん、腰回りの美しいタック使いを見せたいところ。足元はボリュームたっぷりのスニーカーでカジュアルに。

 

 

 

 

コーデュロイパンツに合わせる素材に大胆にコントラストを効かせた、透けるオーガンジーや光沢感のある薄いサテン素材を提案するのも、<Vanity Nap>らしい。実用的ではなくてただひたすらにいい意味で「飾り」に徹したフードアクセサリー、そして気の利いたレイヤードアイテムとして活躍するトップスにも注目を。

 

カジュアルなショッパーバッグにも、艶めくオーガンジーをチョイス。THE SHEではブラックとバーガンディの2色展開。バーガンディは青もミックスされていて、太陽のあたり方によって玉虫色のように光るのも楽しい。

そして今は、スタンダートアイテムをもう一度、見直そうという気持ちも高まっている。例えば、毎夏着ていたTシャツや毎日穿いているボトムについて。誰かの基準ではなくてよく、自分がそれを「定番」と思うならそれがいいし、シンプルなものが必ずしも「定番」ではないという感覚だ。寒暖の差が激しくて、何を着たらいいのか分からない今のうちに、次なる季節のそれを考えるチャンスかなと思う。

そんな気分だから、私には<Vanity Nap>のTシャツ+レギンスの提案に共感した。Tシャツはさらさらのジャージー素材、肩を少し落としたボクシーシルエット。オーバーサイズながら、ボトムインしても着膨れずに品よく、きれいなシルエットを出せるよう計算されている。レギンスは遊び心のある光沢がワクワクするし、後ろにスリットの入ったフレア裾にトレンド感が詰まっているから、なにを合わせても今の気分が纏うことができる。丈は日本人体型に合わせ、本来よりも少し短めに設定して入荷。これは私にとっては早々と「新定番」認定したアイテムであるため、黒はもちろんのこと、スリップドレスやチュニック、ワンピースに合わせて映えそうな水色と2色買いした。

 

<Vanity Nap>は青春時代を懐かしく思いながらも、今を懸命に、できる限りで楽しむ私の心に刺さるブランド。そういえば、まだ出会っていなかった90年代、SACHIはどんなファッションを楽しんでいたんだろう。今度、事細かに聞いてみよう。

Text : Kaori Watanabe<FW>