THE SHE

FASHION PHOTOGRAPHS

池野詩織×<THE SERIES>YO-YOタンク

THE SHE magazineの新しい試みとして、注目ブランドを写真家に自由に撮ってもらう企画をスタートする。理由はいくつかあり、ひとつはコロナ後、ファッションにローカリズムの重要性を感じるから。本国のテーマやコンセプトをそのままに紹介するよりも、それぞれの国でそこに住む人たちが自由な解釈でファッションを楽しむことこそが重要で、面白いと感じている。もうひとつはもっと単純。写真が好きで、写真の持つ力を信じているから。写真には、言葉では到底追いつけないものが確かにある。常日頃から様々な媒体で様々なフォトグラファーと仕事をするが、同じ景色を見ているはずなのに、切り取られた世界は驚くほどに鮮明で、面白くて、胸に刺さる。だから手法はいたってシンプルに、THE SHEが「このブランドなら、この人に撮ってほしい!」という気持ちをそのまま写真家に託し、企画を丸ごと渡して、自由に撮ってもらうことにした。

第一回目は、写真家の池野詩織さん。詩織ちゃんが日常の何気ない場所やシーンで、フィルムで撮る女の子の写真に、いつもぎゅっと心をつかまれる。ハチャメチャにはしゃいでいる女の子たちも、ヘッドフォンで音楽を聴きながら東京の夜の遊歩道で立たずむ女の子も、自分とは違う人生を歩んでいる知らない人なのに「あれは私だ」と感情移入してしまう。うら若き青春時代を思い出して、あの頃の自分は元気かなとふと思ってみたり、よし、女の子たちみんな頑張ろう! 私も頑張る! と今一度、自らを鼓舞してみたり、私は私でいいんだと自己肯定できたりする。プライベートで自由に撮ったものだけではなく、確固たるテーマや制約のある広告やファッションブランドの撮影でも同様に心をつかまれるところが詩織ちゃんのすごいところだ。

 

 

抽象的にしか表現できなくて、やっぱり言葉では追いつけないなと思いつつ、感情に委ねて書くならば、彼女の写真はカラフルな砂鉄のようだ。日常の小さな幸せや楽しみを見つけ出して、すくい上げて、彩る。詩織ちゃんを磁石に例えたら(ごめん)、広大な砂の中からいろんな色の小さな砂鉄を、なんだかすごい形と色で集めてしまう磁石という感じ。一緒に撮影していると、急に視界から消えさることが多々、ある。モグラか!と突っ込みたくなるほどに地面に這いつくばっていたり、空間のものすごく端っこから撮っていたりして、一緒にいるにも関わらずに、神出鬼没。チェリー柄のヴィンテージパンツにスニーカー、布バッグを斜めがけというような出で立ちで、いつもとびきり楽しそうに写真を撮っていて、こちらまで嬉しくなってしまう。

そんな詩織ちゃんには、NYのとびきりにインディペンデントなブランド、<THE SERIES>のYO-YOタンクを撮ってもらった。デザイナーのエラ・ヴィズニアが、今あるものをリユースして最新のアイテムを作るというコンセプトを元に、2016年に立ち上げたブランド。エラは25歳と若く、サスティナビリティに対しても真摯に、そして楽しく向き合っている。YO-YOタンクはヴィンテージの布をシュシュ状に丸くしてつなぎ合わせて、ベストとドレスに変えたもの。手法はシンプルだけれど、ノスタルジックな気持ちをくすぐるとびきり可愛いアイテムで、夏のレイヤードスタイルに最適だ。3月に発売したパフジャケットは4枚限定ですぐに完売。今回も、11枚と数は少ないが、そこはエラの企業理念をリスペクトして大切に売り出すことにする。

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詩織ちゃんは、写真家としてのスタートもとてもユニークだ。「最初は写真家になろうと思っていたわけじゃないんです。私が10代の頃、ZINEカルチャーが盛り上がっている時で、私も写真とか絵とか文章とか、いろんなもので自己表現をして、一冊のZINEにまとめていたんです。気になるワークショップやアートブックフェアに参加していたんですが、写真を褒められることが多かった。それでタンブラーやフリッカーにも写真を投稿するようにもなりました。ある時、自己紹介する時に『写真家』と言うことにしたら、その日のうちに写真家の花代さんのアシスタントにつけることになったんです。そう思うと、名乗るとか言葉にするのは大事ですよね(笑)」。

 

初めての仕事は、20歳のとき。フイナムマガジンからの依頼で、青山学院大学でのオレンジレンジのライブを撮った。今も、あいみょんのシングル『今夜このまま』、『さよならの今日に』のジャケット写真をはじめとするミュージシャンとの仕事も多数ある。<adidas>の「FORUM 84 HI INDIGO」のキャンペーンビジュアルや<undercover>、<MIKIOSAKABE>のルックブックなど、ファッション分野での活躍も目立つ。2019年には初めてのハードカバー写真集『オーヴ』を出版した。

「今は音楽とファッションが多いですが、<adidas>でのお仕事をきっかけに、スポーツや、アスリートの写真を撮ることも増えてきました。いつか大坂なおみさんを撮ってみたいですね。女性の被写体はやっぱり好き。自分のことのように共感できるんだと思います。夜の街をロケーションにして撮ることも多いです。街の光を集めて撮る感覚が好きなんです。普段は、いつもコンパクトカメラを持ち歩いてます。機種は特にこだわりはないです(笑)」

<THE SERIES>のYO-YOタンクはまだ桜が舞い散る3月末、自宅のある中野区で、友達をモデルにして撮影した。「今回は前もってテーマを決めずに、リラックスして撮ることにしました。よくモデルをお願いする友達と、自由気ままに家の周りをぶらぶらしながら、場所を見つけました。家の中とか近所とか、なんだかんだ言って、今の自分が1番親しみの持てる場所をがいいかなと思ったんです。ちなみに、<THE SERIES>の中で、このアイテムが1番好きです。私も夏に着たいな。」

NYでデザイナーのエラがチクチクとヴィンテージ布を縫い合わせて作った洋服が、東京の中野区の小さな公園の鉄棒にかけられていたり、桜をバックになびいていたり、お友達の私服にごく自然に重ねられていたり。やっぱり、”ファッションのローカリズム”は楽しいと改めて気づかされた。

もうすぐ30歳、写真家と名乗り始めてからまもなく10年。「これからもずっと自分肯定できる仕事と生き方をなにより大切にしたいです。これだけ世の中が様変わりするわけだから、自分の価値観が変わらない自信はない(笑)。それでも、いつも自分が気持ちいいと思えるような生き方をしたいです。写真家としては、コロナが落ち着いたら海外のアートブックフェアに出品したり、海外でももっと仕事をしていきたいですね」。

Direction & Photo : Shiori Ikeno Interview & text : Kaori Watanabe<FW>