THE SHE

P. LE MOULT

心踊る出合いと、かわいいの背景。

「かわいい」という言葉をずっと追い続けている。まず、理由や背景などまるで関係なく、直感や視覚のみから生まれる「かわいい」が好きだ。それはファッションの楽しさであり、醍醐味であるから。ただ、そこで止まらずに、その気持ちをきっかけとして、なぜ?どうして?と深堀りしていくことも同じくらい大切にしている。THE SHEでは2人が「かわいい」と思ったものに、しっかりと自信と責任を持って世に送り出したいという気持ちが強いからである。

 

<P.LE MOULT(プ・ル・ムールト)>は、直感的な「かわいい」センサー発動後、その背景を聞いたり調べたりするのがとても楽しく、興味深いブランドだ。デザイナーは、セントラル・セント・マーチンズ(ロンドン芸術大学)とエコール・ド・ボザール(パリ国立高等美術学校)を卒業した、プラリヌ・ル・ムールト。一貫して「フランスの有名な冒険家から継承した衣類」をテーマにしているブランドで、カテゴリーは初めて耳にする「ホームアドベンチャーウエア」なるもの。なにより面白いのが、その冒険家が、彼女の曽祖父だということ。その名もヴィジェーヌ・ル・ムールトは有名な蝶ハンターで、NY、ロンドン、パリの国立博物館に続くほどのプライベートコレクションを所有していた。*現在はベルギー博物館に所蔵。

 

1882年にフランスのカンパーニュ・カンペールに生まれ、成人後は南アメリカのギアナ植民地の刑務所の役員になるのだが、そこに生息していた数々のレアな蝶に夢中となり、刑務所の囚人と一緒に蝶を採集することを考えついた……って、その発想がまずユニーク。船でヨーロッパに運ばれて売買されて得たお金は、囚人たちが刑期を終えて出所する際に渡していたというのも、いい話。ちなみに、この地で未開発であった大半の道路を建設し、現在でもそのインフラが使われているのだとか。

 

この冒険家はハンティングに出かける時の服装にもかなり強いこだわりがあり、南アメリカへの遠洋定期船で過ごすときの服、ジャングルでの狩りや睡眠時の服などをすべてオーダーメイドしていた。後に、蝶の標本のみならず、この時のワードローブをパリ郊外の別荘へ保管。それを曽孫にあたる、デザイナーのプラリヌが継承して、2021年の今、コレクションにして発表している。なんて面白くて夢のある物語なのだろう! 洋服に腕を通すと、時空を超えて、20世紀初頭の南アフリカのジャングルとコネクトできるような感覚すらある。ジャングルの中にテントを張り、セーラーカラーのシャツドレスに着替え、寝ても覚めても蝶のことを考えながら、毛布にくるまって眠る姿を想像するのは楽しい。

 

THE SHEがその中からセレクトしたのは3型、6色。1つ目はセーラーロングシャツドレス。もともと、SACHIも私も大人が着られるセーラーカラーの洋服が大好きで、長年、新品、ヴィンテージ問わずに収集しているため、まずは直感で「かわいい!」とラックにかけられたこのアイテムに突進。生地は南インドで手織りされたコットン100%。8月でもさらりと着られる快適な着心地。セーラーカラーを縁取る細いパイピング使いも上品かつアクセントになる。深いVネックは鎖骨や首元をキレイに見せてくれるし、インナーとのスタイリングも楽しい。サイドスリット入りだから脚さばきもいい。秋が深まれば、デニムやワイドパンツはもちろん、レギンス+分厚いソックス+ローテクスニーカーを存分に楽しみたい。色は清楚な白とTHE SHEの永遠の定番色、ネイビー。

 

 

2つ目は膝下丈で上記のロングドレスより丈が短い、セーラーシャツドレス。1枚でシンプルに着るもよし、ワイドパンツやショートパンツを合わせてモダンにアレンジするもよし。個人的には<スリーピー・ジョーンズ>のパジャマシャツを街でよく着ているのだけれど、それと同じような感覚。本来は寝室や家の中で着るものをあえて街着にすることの楽しさ、かっこよさがある。色は朱赤とエーゲ海のような深みのあるマリンブルー。

 

 

3つ目はこれまたTHE SHEの永遠の定番、つなぎ。しかも、ストライプ、ヘリンボーン素材、オーバーサイズと好きな要素が詰まりすぎて、大渋滞。つなぎと我々は愛を込めて呼んでいるが、ファッション用語を使うなればオールインワン。スタイル良くとか、体のラインを強調するフェミニンなオールインワンはどうも苦手で、いつもあえて適度にオーバーサイズか、メンズを選ぶ。その方が腕まくりしたり、ウエストだけ絞ってみたり、裾をロールアップしたりとアレンジできるのもいい。フロントに縦に長く並ぶ、スナップボタンもよきアクセント。同布のベルトつきなのでフォルムを変えやすいのも楽しい。SACHI曰く、すべてのバランスがパーフェクト。

 

ちなみにこの世界最高のバタフライハンターにして、デザイナーの曽祖父、ヴィジェーヌ・ル・ムールトの伝記が残っている。中公文庫から出版されている『捕虫網の円光-標本商ル・ムールトとその時代』(奥本第三郎著)。夏休みの読書にもよさそうだ。

Text : Kaori Watanabe